​原発性リンパ浮腫患者に対する給付金決定の基準が変わる!?

現状(2019年1月現在)は、原発性リンパ浮腫や外傷性リンパ浮腫、リンパ節郭清を伴わないリンパ浮腫の方などは、健康保険療養費の給付基準から外れています。
しかし加入されている健康保険の制度によって給付してもらえたり、不支給決定になっても不服申し立てによって給付してもらえたりと、必ずしも給付を受けられない訳ではないんです。
まず、こちらを読んでみてください。厚生労働省内に設置されている、社会保険審査会の裁決文からの抜粋です。

<抜 粋 1. >
平成27年(健)第220号
平成27年11月27日採決


再審査請求の経過

1. …医師の指示で、両下肢原発性リンパ浮腫の治療のため装着した弾性ストッキング2本分の代金に対し、家族療養費の支給申請した。

2. …平成21年3月20日保発第0321001号による対象疾患は悪性腫瘍の術後リンパ浮腫と明記されている。今回申請の傷病は原発性リンパ浮腫であり、不支給と決定した。

当審査会の判断

2. …弾性着衣等にかかる療養費の支給対象については「リンパ節郭清術を伴う悪性腫瘍の術後に発生する四肢のリンパ浮腫」とされている。

3. …健保法第110条第7項及び第87条第1項の規定の趣旨からすれば、家族療養費の支給について、これをどの範囲で行うかは、保険者の合理的な裁量に委ねられているものということができる。

4. …一時性(原発性)リンパ浮腫と、二次性(続発性)リンパ浮腫の治療法は共通であり、…リンパ系の循環機能障害でリンパ液が患肢に貯留して発症する浮腫であるという、その発生機序において同一のものと考えられ、…当審査会としても、術後のリンパ浮腫と原発性のそれとでは治療内容に相違がないことが認められていることからすると、本件傷病を弾性着衣等に係る療養費の支給対象から除外することは、療養費支給の趣旨・目的に照らして必ずしも合理的なものであるとはいえないと判断する。

…医師作成の「意見書」によれば、弾性包帯を使用した圧迫療法を行い、その後弾性ストッキングの着用を指導、…治療方針は続発性と全く同じように圧迫療法を行うことが必須で、圧迫療法を行わずにリンパ浮腫の治療を行うことは不可能としている。

…以上みてきたように、原発性リンパ浮腫は、リンパ節郭清を伴う悪性腫瘍術後のリンパ浮腫とは別傷病ではあるが、それらの発生機序、治療方針は共通のものであり、…本件家族療養費の支給を認めるべきものと判断される…

平成27年(健)第220号
平成27年11月27日採決

この裁決文は、健康保険療養費の申請をした原発性リンパ浮腫患者の被保険者(被扶養者)が不支給決定となり、再審査請求をしたところ社会保険審査会において決定が覆ったことが書かれている文書です。
お役所的に難しい言葉が並んでいるのでウンザリしそうですが、一言で言うと
「不支給決定を受けた請求者に対して、給付しなさいよ、と決定した」ということです。
もちろんこれは、審査請求をした当事者個人に対しての決定文です。
しかしこれは、全ての原発性リンパ浮腫患者に当てはまることです。今後、原性リンパ浮腫の療養費支給決定のスタンダードとなっていくことは間違いありません。

​原発性リンパ浮腫の方も給付金申請を諦めないで

2019年1月現在、原発生リンパ浮腫をはじめとする、癌を起因としないリンパ浮腫の健康保険療養費は「健康保険の給付対象外」ということになっています。
「対象外だから仕方ないよね」と、諦める原発性、その他原因のリンパ浮腫の患者さんたち。給付申請することを諦めないでください。
健康保険法には、規定にない事例を申請してはならないとは一言も書かれていません。むしろ第87条、第110条第7項では、保険者の裁量によって給付できることもあるよ、と寛容な態度を示しているのです。
原発性や外傷性リンパ浮腫しかり、リンパ節郭清を伴わない発症しかり。
だから、安心して申請してください。申請することを違法だとか犯罪だとかいう人があれば、その認識を正してあげてください。
そして、もしも不支給という納得できない結果になったなら、不服申し立てなり審査請求なりしてください。被保険者に与えられた当然の権利です。

第87条 保険者は、療養の給付若しくは入院時食事療養費、入院時生活療養費若しくは保険外併用療養費の支給(以下この項において「療養の給付等」という。)を行うことが困難であると認めるとき、又は被保険者が保険医療機関等以外の病院、診療所、薬局その他の者から診療、薬剤の支給若しくは手当を受けた場合において、保険者がやむを得ないものと認めるときは、療養の給付等に代えて、療養費を支給することができる。

健康保険法(療養費)

給付申請しようにも、医師の装着指示書がなければ「やむを得ない」とは認められません。患者だけで頑張ってみても給付決定に結びつきません。患者、医療者、メーカーと手を結んで初めて給付決定に持ち込めるのです。
お互いがお互いを信頼して協力することで、より良い給付決定基準が定められるものと信じます。
まずは近くの人に相談してみてください。
協力を得られなければnokiaまでご連絡ください。何かの形でお手伝いできるかと思います。

​ブログにも、この件について書いています。個人的な意見も書いていますので、よろしければご一読ください。
こちらです ー 原発性リンパ浮腫の弾性着衣、健康保険療養費を申請するのは患者に与えられた権利である

​採決文の全文を載せますのでよろしければご一読ください

平成27年(健)第220号

平成27年11月27日裁決

主文
後記「理由」欄第2の2記載の原処分を取り消す。​

理由
第1 再審査請求の趣旨
 再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。

第2 再審査請求の経過
 1 請求人は、〇〇健康保険組合(以下「保険者組合」という。)を保険者とする健康保険の被保険者であるところ、同人の被扶養者であるA(以下「A」という。)が、a病院・B医師(以下「B医師」という。)の指示で、両下肢原発性リンパ浮腫(以下「本件傷病」という。)の治療のため、平成○年○月○日から装着した弾性ストッキング(F317K-1-Sメディフォルテパンティストッキング加圧タイプ爪先無)(以下「本件弾性ストッキング」という。)2着分の代金(1着分2万7000円、会員割引後の合計額5万2488円、消費税込み)を支払い、その費用につき、平成○年○月○日(受付)、保険者組合に対し、家族療養費(以下「本件家族療養費」という。)の支給を申請した。
 2 保険者組合は、平成○年○月○日付で、請求人に対し、「四肢のリンパ浮腫治療のための弾性ストッキングに係る療養費については、厚生労働省からの通知「四肢のリンパ浮腫治療のための弾性着衣等に係る療養費の支給について」(平成20年3月21日保発第0321002号)および「四肢のリンパ浮腫治療のための弾性着衣等に係る療養費の支給における留意事項について」(平成20年3月21日保医発第0321001号)により取り扱っている。この通知で、支給対象となる疾病は、リンパ節郭清術を伴う悪性腫瘍の術後に発症する四肢のリンパ浮腫と明記されている。今回申請の傷病は原発性リンパ浮腫であり、療養費の支給対象となる悪性腫瘍の術後に発症するリンパ浮腫ではないため不支給と決定しました。」という理由により、本件家族療養費の支給をしない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
 3 請求人は、原処分を不服とし、標記の社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し再審査請求をした。

第3 当審査会の判断
 1 健康保険法(以下「健保法」という。)は、その第63条において、被保険者の疾病または負傷に関しては、診察、薬剤または治療材料の支給、処置、手術その他の治療等の療養の給付を行うと規定し(同条第1項)、その療養の給付を受けようとする者は、保険医療機関または保険薬局等のうち、自己の選定するものから受けるものとすると規定している(同条第3項)。また、保険医療機関において健康保険の診療に従事する医師もしくは歯科医師または保険薬局において健康保険の調剤に従事する薬剤師は、厚生労働大臣に登録を受けた医師若しくは歯科医師(以下「保険医」と総称する。)又は薬剤師(以下「保険薬剤師」という。)でなければならず(同法第64条)、保険医療機関又は保険薬局は、当該保険医療機関において診療に従事する保険医または当該保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師に、診療または調剤に当たらせるほか、療養の給付を担当しなければならず、保険医療機関において診療に従事する保険医または保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師は、健康保険の診療または調剤に当たらなければならないとされている(同法第70条第1項、第72条)。健保法は、以上のように、被保険者の疾病、負傷に関する療養の給付については、療養の給付の担当を保険医療機関、保険医等と定めた上で、療養の給付の受給方法を現物給付の方式と定めているのである。しかし、現実の問題として、事情によっては、被保険者が診療費を自弁しなければならない場合があることも否定できないところであり、そのため、健保法は、このような場合のため療養の給付に代えて、診療に要した費用を療養費として支給することとし、第87条第1項において、保険者は療養の給付等を行うことが困難であると認めるとき、または被保険者が保険医療機関等以外の病院、診療所、薬局その他の者から診療、薬剤の支給若しくは手当てを受けた場合において、保険者がやむを得ないと認めるときは、療養の給付に代えて、療養費を支給することができると規定している。健保法が療養の給付および療養費の支給につき上記のように定めている趣旨は、健康保険においては、現物給付たる療養の給付を原則とするが、保険者が療養の給付を行おうとしても行うことができない場合もあり、そのため、保険者が療養の給付を行うことが困難である場合等で保険者がやむを得ないと認めるときには、療養を給付することに代えて現金給付としての療養費支給の方法を認めたものである。
 そして、健保法第63条および第87条の規定は、家族療養費の支給および被扶養者の療養について準用するものとしている(同法第110条第7項)。
 本件において問題となるのは、Aに対する弾性ストッキングの支給に係る家族療養費について、保険者組合が、療養の給付に代えて、これを支給しないとした原処分の当否である。
 2 しかして、四肢のリンパ浮腫治療のために使用される弾性ストッキング、弾性スローブ、弾性グローブ等(以下「弾性着衣等」という。)に係る療養費の支給については、「四肢のリンパ浮腫治療のための弾性着衣等に係る療養費の支給について」(平成20年保発第0321002号厚生労働省保険局長通知)により、腋窩、骨盤内の広範なリンパ節郭清を伴う悪性腫瘍の術後の四肢のリンパ浮腫治療のために、医師の指示に基づき購入する弾性着衣等の購入費用について療養費の支給対象とするとされ、「四肢のリンパ浮腫治療のための弾性着衣等に係る療養費の支給における留意事項について」(平成20年3月21日保医発第0321001号厚生労働省保険局医療課長通知)により、支給対象となる疾病は「リンパ節郭清を伴う悪性腫瘍(悪性黒色腫、乳腺をはじめとする腋部のリンパ節郭清を伴う悪性腫瘍、子宮悪性腫瘍、子宮附属器悪性腫瘍、前立腺悪性腫瘍及び膀胱をはじめとする泌尿器系の骨盤内リンパ節郭清を伴う悪性腫瘍)の術後に発生する四肢のリンパ浮腫」とされている(以下、上記2件の通知を併せて「本件通知」という。)
 3 保険者が、療養の給付等を行うことが困難であると認めるとき、又は被扶養者が保険医療機関等以外の者から薬剤の支給等を受けた場合において、やむを得ないと認めるときは、療養の給付に代えて家族療養費を支給することができるとする健保法第110条第7項および第87条第1項の規定の趣旨からすれば、家族療養費の支給について、これをどの範囲で行うかについては保険者の合理的な裁量に委ねられているものということができる。本件通知は、健保法第63条第1項及び第87条第1項の規定による療養費支給の趣旨および目的に照らし、保険者が上記裁量判断をする場合において、合理的であると認められる限度において、給付の公平を期するための基準として、これに依拠するのが相当である。
 4 本件の場合、本件傷病が原発性であることに疑いはなく、前記通知に列挙された支給対象とされる術後リンパ浮腫には含まれないことは明らかである。そこで、リンパ浮腫の発症機序をみてみると、その原因傷病としてリンパ管・リンパ節系の先天性発育不全、腫瘍などを含めた二時性圧迫、狭窄、閉塞などによって、リンパ流の阻害、局所の鬱滞、循環量の減少のため生じた浮腫であり、原因としては二次性によるものが多いとされているが、先天性、二次性いずれの場合も血清蛋白の局所組織内貯留のために、次第に組織細胞変性、繊維化が起こり、皮膚の硬化、変形を生じるものとされている。すなわち、先天性・早発性・遅発性など原因の明らかでない一次性(原発性)リンパ浮腫と、寄生虫(フィラリアなど)、手術後(乳癌、子宮癌など)、悪性腫瘍性、炎症性、放射線性など原因を特定できる二次性に分類されるが、その治療法は共通であり、炎症が著しい場合には抗生物質も使用され、ある程度は有効であるが限定的である。通常の血流阻害による浮腫と異なり、利尿薬などの薬物療法の効果は期待できず、夜間に患肢を挙上する、マッサージ、軽い運動、温水浴など理学的療法に加え、日中の活動時には下肢に対して弾性ストッキング、上肢に対して弾性スリーブの着用を行い、これらにより治療効果を維持することができる。言い換えれば、リンパ浮腫は、それが悪性腫瘍術後のもの、リンパ節郭清後のものであれ、他の原因による二次性、あるいは原発性のものであれ、リンパ系の循環機能障害でリンパ液が患肢に貯留して発症する浮腫であるという、その発生機序において同一のものと考えられ、局所圧迫等に代わる根治療法がない現状のおいては、弾性着衣(ストッキング、スリーブ)による患肢の圧迫がその進行を抑え、象皮様変化や皮膚病変発症など病態憎悪の回避に対して、唯一効果があるとされている。そうして、当審査会としても、術後のリンパ浮腫と原発性のそれとでは治療内容に相違がないことが認められていることからすると、本件傷病を弾性着衣等に係る療養費の支給対象となる疾病から除外することは、療養費支給の趣旨・目的に照らして必ずしも合理的なものであるとはいえないと判断する。平成20年(健)第554号事件における当審査会委員長からの照会に対し、厚生労働省保険局医療課が平成○年○月○日付回答書において述べる、本件傷病について、「その疾患概念や診断基準等が確立されておらず、弾性ストッキングの有効性についても科学的根拠が示されていないことから、現時点では、弾性ストッキングを療養費の支給対象とすることはできない。」とする見解は、当審査会が採用するところではない。
 さらにみると、B医師作成の平成○年○月○日付「A様意見書」と題する書面によれば、同医師は請求人の当該傷病について、○歳頃から原因不明で両下肢に浮腫が見られ始め、他院でのリンパ管シンチグラフィーを受けて浮腫の原因は「原発性リンパ浮腫」と診断され、その後下肢の炎症を繰り返し、乳び胸水・腹水、両下肢の浮腫が強くなったため、弾性包帯を使用した圧迫療法を行い、その後弾性ストッキングの着用を指導しており、その治療結果として症状軽減が見られており、治療方針は続発性と全く同じように圧迫療法を行うことが必須で、圧迫療法を行わずにリンパ浮腫の治療を行うことは不可能としている。また、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「原発性リンパ浮腫の患者動向と診療の実態把握のための研究」及び「原発性リンパ浮腫全国調査を基礎とした治療方針の作成研究」研究代表者であり、原発性リンパ浮腫診断治療指針作成委員会委員長・笹嶋唯博医師、日本脈菅学会理事長・重松宏医師、日本血管外科学会理事長・宮田哲郎医師、日本リンパ学会理事長・大橋俊夫医師、日本静脈学会理事長・岩井武尚医師、日本形成外科学会理事長・平野明喜医師が厚生労働大臣宛てに提言した平成24年8月2日付「原発性リンパ浮腫に関する政策への共同提言」と題する書面によれば、現在保険適用外で診療されている原発性リンパ浮腫の実態に鑑み、原発性リンパ浮腫診断治療指針に推奨された医療体系について保険収載し、患者負担の軽減を図り、原発性リンパ浮腫を完治させるため、治療手段の開発を基礎研究から臨床研究に至るまで国として支援し、強力に推し進めることなどを提唱しているところである。
 以上みてきたように、原発性リンパ浮腫は、難治性疾患(希少性疾患で、現在まで確実な治療方法が確立していない難治性疾患)として捉え得る傷病で、本件通知に支給対象として記載されているリンパ節郭清を伴う悪性腫瘍術後のリンパ浮腫とは別傷病ではあるが、それらの発生機序、治療方針は共通のものであり、数量も装着部位ごとに2組とした限度額内であることから、本件家族療養費の支給を認めるべきものと判断されるのであり、上記第2の2記載の理由により、これを支給しないとした原処分は、保険者組合に委ねられた裁量の範囲を逸脱するものというべきであり、相当でない。
5 よって、原処分を取り消すこととし、主文のとおり裁決する。